【レビュー】渡邊一久著「幻の大山道場の組手」(2013年)
JUGEMテーマ:空手
どうも、GW早々風邪引いて寝込んでましたw
まぁ、私の近況はさておき…今回は極真会館の前身、大山道場で生え抜きとしては初代師範代となる渡邊一久先生の著作「幻の大山道場の組手」を紹介したいと思います。

編集は、今この手の本を出すならここしかない、フル・コムですね。
「渡邊(渡辺)先輩」の名前は以前より大山道場時代の諸先輩方から出ていましたが、メディアに登場したのは「格闘Kマガジン」が最初でしたっけ、以来、山田英司編集長の独占的な形で取材に答えられて来ましたが、ようやく1冊の本になった、という感じです。
渡邊先生は大会が始まる数年前に退会された為、当時のままのスタイルを留めており、技術解説でも試合形式に迎合しないその姿勢は実に貴重だと思います。
本書を著した意図について、こう序文に書かれています。
大山先生は、自分が伝えた空手の技術が失われることを心配されていた。 大会ルールに基づく技術とは別に、ルール無用でも使える大山先生の技術の伝承を望んでいたのである。
今日の空手界を見ると、確かに大山先生の伝える技術が、どこまで伝承されているのであろうか。 時代に即した安全な空手、というのも確かに存在価値がある。
しかし、そうした空手とは別に、大山先生は大山道場で、ルール無用の実戦で使える空手を指導されていた。
(中略)
大山先生の技術の伝承こそ、今の私の人生の目的となった。
という事で、本書では大山倍達総裁が使っていた技術も多数登場しますし、以前何の写真なのかなーと訝しんでいた毛利松平先生との写真の意味が分かりました。 それは後述するとして…まずは、恒例の目次から。

著者
前書き
第一章 大山道場の青春
いざ、大山道場入門へ
実戦的な大山道場の組手
厳しい愛のムチの組手
いかに南本先輩に追いつくか?
初めての審査会
石橋先輩の華麗な組手
大山先生の組手
蹴りの名手、安田先輩の組手
鬼気迫る黒崎先輩の組手
深夜の特訓
ライバルに勝つ
初代師範代を命じられる
対照的な大山兄弟の組手
タイ遠征が変えた中村忠氏の構え
藤平昭雄の小よく大を制す組手
芦原英幸の独特の組手
もう一人の小さな巨人、加藤重夫氏
梶原一騎氏に伝えた実戦談
28人を相手に戦う
実戦と息吹き
豚との戦い
大山先生の夢を実現さるために身体を張る
魂を伝承する空手
第二章 大山倍達先生の組手
構え
受けのポイント
受けと攻めの一致
転掌掛け
手刀受け
転掌掛け下段払い
同時突き
●手刀ビール瓶斬りのコツ

第三章 大山道場 組手入門
構えからの突きと受け
基本組手
基本の受け返し
約束自由組手
●スピードアップの練習
第四章 組手上級編
相手のスキをつき自分から攻める
金的蹴りと正拳連打
引きつけ技
下段蹴り
裏拳
投げととどめ
●空手とウェイトトレーニング
第五章 対談 安田英治×渡邊一久
安田先輩は何気ない様子でスッと技の本質を教えてくれあた(渡邊)
大山先生は十円硬貨を親指と人差し指の2本で曲げました(安田)
右の三角蹴りか足刀と同時に顔面へ右の突きで動かなくなります(渡邊)
受けることを優先課題にしたから私は生き残ったんです(渡邊)

第六章 強豪たちの組手技術
黒崎健時先輩の組手
石橋雅史先輩の組手
南本一朗先輩の組手
安田英治先輩の組手
藤平昭雄氏の小よく大を制す組手
●実戦的な息吹きの呼吸
第七章 護身応用編
対ナイフの技術
左の蹴りの練習法
実戦への応用
金的蹴りの防御と反撃
3方向の運足
後書き
いや、目次だけでもそそられますね。
本書の基本構造は前半が渡邊先生の自伝、後半が組手技術となっています。 しかし自伝パートも面白いですね。 本書でもさり気なく書かれていますが、目白野天道場時代の門下生はあまり当てる組手を行っておらず、一部の年長者のみ実際に当てていたらしいんです。 その為、立教裏に移転した頃は大学空手部との間に技術にかなりの差があり、相当苦労された様です。
で、大山道場の基本の構えが載ってますが、私が考える大山道場の基本的な構えというのは、大体上下に手を置くんですよね。 顔面と金的を意識した結果がこうなのでしょう。 大山総裁が行っていたという前羽の構えも、上下への変化が効くのが前提ですし、山崎照朝先生は上下に構えた前羽の構えを使っていました。

基本の構え
加藤重夫先生や藤平昭雄先生はアップライトに近い構えも使っていた様ですが、これはフットワークを多用する結果、構えが小さくなったんじゃないかなぁと思います。 この2人にとっては金的蹴りよりも、リーチの差から来る顔面パンチの方が怖かったのかも。
そして興味深いのが大山総裁の組手の変化。 打撃と投げを一体化させた様なパワフルな組手から円の受けを使った崩しの組手へ。 ちょうどジョン・ブルミン先生が来日された頃からそういう組手をされる様になったらしいのですが、どうもブルミン先生を仮想敵と見なして色々やっていたっぽいですね。
空手をマスターした大柄な柔道家と対するには〜という結果が掛け技からの崩しなんでしょう。
実は、そうと思いながら技術書を読むと…面白い結果が出ました。
初版の"Whati is Karate?"ではあまり掛け技が出て来ません。 いや、あるにはあるんですが、多くはありませんね。 54〜55年頃にリチャード・キム先生と撮った一本組手の写真では豪快な投げが載ってますが、合気道系の技以外はあまり出て来ません。

すくい投げ
これが59年の改訂版では廻し受けや掛け技が紹介されてます。 そして65年の"This is Karate"では円形逆突きや転掌系の技が多く収録される様になりました。

まぁ、59年発売というのは実際には58年頃の技術という事になるでしょうから、色々考えながら組手をされていたんじゃないですかね。
そして、あまり知られていませんが、梶原一騎先生の大山道場時代。 有名な看板前の集合写真に梶原先生が写っているらしいという事は知られていましたが、指導した渡邊先生から見た梶原一騎像は貴重です。

サングラスの男性が梶原一騎?
後は…黒崎健時先生ですね。 「黒崎先輩」と呼べる立場の人は殆どいませんので、何か新鮮ですw 黒崎先生とはかなり親しかった様で、笑い話から危ない話など、他の諸先輩方が語る黒崎健時よりも立場が近く、興味深いものとなっています。

んで、交差法の一種になるかと思いますが、同時突き。 先に書きましたが、大山総裁と毛利先生の写真で、奇妙な一葉がありまして、毛利先生に打たせてるのかなぁとも考えてましたが、多分コレ、同時突きを指導されてる写真なんでしょうね。 本来なら大山総裁がカウンターで当てるんでしょうが、それを教えてたんじゃないかと。

多分同時突き
そうそう、以前紹介したビール瓶切りのやり方ですが、ここでもう一つのやり方が出て来ましたw どうりで渡邊先生の瓶切りの写真はちょっと違う筈だw でも、くびれの無い瓶への瓶切りは難易度がかなり高いはずなんですよね。 渡邊先生の瓶切りはくびれのある瓶なのに、例のやり方を使っていません。 同じく瓶切り達成している岡田博文先生は多分振り切っており、出血した写真も残ってます。
他には…大山道場ならではの技術も載ってますね。 金的やバラ手による目突き以外にも、髪を掴んで真下に引き落とす技術とか、個人的にはやられたくない踏み付ける関節蹴り。 特に太極拳などで見られる奥足による膝の内側を踏ん付ける関節蹴りなんて、膝をブッ壊してる私からすれば想像するだけでムズムズしますw
猫足で円形に動きながらの組手も紹介されており、大山道場の組手に興味がある人には色々とヒントになるでしょう。

これまた面白いのが、安田英治先生との対談ですね。 夏場と冬場での靴を履いた蹴りの違い…これは以前少しだけ紹介した日本空手協会の中山正敏先生の本にも出てましたねぇ。
大山総裁とも親しかった某拳法の先生と対戦した話も載っていましたが、この時撮られちゃった写真は偶々"What is Karate?"初版の撮影があって、その先生が隅っこで蹲って大山総裁が看病してる写真が何枚か残っちゃったんですよね。 当ブログでもどっかにありますw
それから大山総裁の実戦に対する思想ですが、「世界ケンカ旅行」を読まれた方なら多分ご承知だと思いますが、武器があるなら武器を使うって考え方なんですよね。 本書でもこんな感じで語られてました。
それともうひとつは、身の回りにある物を使って、なくなったら、習っている空手を使え、とも言われていました。 コップがあるならコップ、箸があるなら箸、フォークがあるならフォークを使う。 ただし、「大義名分がない限りはやるな!」が大前提でした。
対談が終了すると初期の高弟の組手再現。 廬山初雄先生が見たという黒崎先生の、裏に隠した弧拳を当てる、という技法は載ってませんでしたが、無構えからの同時突きや頭突きなど色々載ってます。 石橋雅史先生の連続蹴りが紹介されたのは本書が初じゃないかな。 まぁ、後は本書を読んでのお楽しみという事でw
最後の護身ですが、運足技術なんかも載ってて面白いです。
本書は今まで「何でもありの組手」だとしか知られていなかった大山道場の基本技術から紹介した本です。 端的に語られて来た事はありますが、個人技術の範疇を出ていませんでした。
本流である筈の極真空手では殆ど潰えた技術…特に顔面や金的ありの中で育まれた猫足立ちや掛け技が、これを契機に意識の片隅にでも残ればなぁと思います。
オススメの一冊です。
と言う事で渡邊一久著「幻の大山道場の組手」でした。
先日も書きましたが、ここ最近は大会以前の極真空手が少し目立っており、個人的に喜ばしい限りですw
本書が刊行され、「東京中日スポーツ」の山崎照朝先生の連載は極真ジムにまで差し掛かりました。
ちなみに本書は新刊なので、なるべく自分で調達した方の画像を使おうかなーと思い、今回使った画像の大半は本書に載っていませんw 読まれた方ならほうほうと思われるかも知れませんが、読んで無い方は読みましょうw
次はフル・コムの監修で60〜62年頃入門の方から見た大山道場の組手本を作って欲しいですねぇ。 つまりは、1957年、極真会発足以降の生え抜きの門下生から指導を受けた時代の組手技術です。 …渡邊先生の後は書き辛いかも知れませんがw
あ、そう言えば以前書いた「ボディガード牙」の大山総裁出演シーン、どなたかがYouTubeに上げてました。 鈴木浩平先生が目立ってます。 後、空中煉瓦割り、写真だけかと思ってたら動画があったんですねぇ。
「ボディガード牙」
今回はここまで。 それでは、また。
参考文献:
Masutatsu Oyama, What is Karate? EVERYONE CAN PRACTICE KARATE MYSTERIES, Tokyo-News Co., 1958
Masutatsu Oyama, What is Karate? Revised edition, Tokyo-News Co., 1959
Masutatsu Oyama, What is Karate? New edition, Japan Publications Trading Company, 1963
Masutatsu Oyama, This is Karate, Japan Publications Trading Company, 1965
剣豪列伝集 88号 双葉社 1963年
幻の大山道場の組手―かつて地上最強の空手は実在した 渡邊一久著 フル・コム編 東邦出版 2013年
関連リンク:
大山道場とは何か?
神の手の原点、瓶切り
「カラテ群像」5 小坂修一 初段(1982年)
「カラテ群像」6 加藤健二 三段(1982年)
「カラテ群像」8 安田英治(1983年)
「カラテ群像」10 矢島力 初段(1983年)
「カラテ群像」11 石橋雅史 七段(1983年)
「カラテ群像」12 加藤重夫 三段(1983年)
師・大山倍達が伝えたかった空手(渡邊一久先生のブログ) (2013/4/30)

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- 2013.04.30 Tuesday
- 極真系の本
- 01:39
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- by Leo
本当に貴重な情報で、ぜひとも伝承していって頂きたいですね。
あと動画の情報も有難うございました。
空中レンガ割をまさか観れるとは・・・